マストドン、特にJP鯖について

イーロン・マスクのおかげでTwitterが潰れるだの、言論の自由が侵されるだのという言説が飛び交う少し前に、マストドンに出入りするようになった。そして入り浸っている。

マストドンのアカウントは2017年に若干話題となった時に何となくノリで取得したものの全く使っていなかったものをそのまま使っている。

今入り浸っているインスタンスはmstdn.jp。通称「JP」「JP鯖」と呼ばれる場所だ。

一部で毛嫌いされているように、ここは一見すると、下ネタが飛び交う「掃き溜め」インスタンスなのだが、個人的にはなぜかこのインスタンスをとても気に入っている。

ちなみにJPで「ここを気に入っているのだ」とストレートに書き込むと非常にキモいオジサンになってしまう感があるので、ここでで何となく書き散らしておこうと思っているわけである。

 

JPの空気感

確かにいつも誰かが下ネタを言っている。どぎつい口調の人間も多い。ち●こやま●この無修正写真を上げる輩も一部いたりして、ぱっと見ではこのインスタンスのローカルタイムラインは治安が悪い(ことが多い)。馴れ合いも激しく、その輪にも一見加わりにくそうに見える。

最初にこのインスタンスを立ち上げた管理人があえてそのような空気感を作ったことも遠因と言われているが、とにかくいろんな奴が四六時中何かぎゃーぎゃー言っている。

が、自分のように「馴れ合いにもなじみきれないし、下ネタもあんまり常時言うほどネタもないし、そんなにいつも発情期じゃないです」的なユーザーもよく見ると結構いて、そういうユーザーを中心にフォローしていけば、ホームTLはTwitter黎明期のようななんとも平和な空間になる。

ちなみに自分のホームTLは基本的に、誰かが酔っ払ってへらへらしているだけである。(そういう人しかフォローしてない)

 

ユーザー層

学生、10〜20代がそこそこいる印象。学校や試験、就活などとからめた日常報告もちょいちょい。30〜40代以上もいるが比較的おとなしい。TLでの発言が目立つのは若い層なのは当たり前か。

社会人は職種もさまざま。一般企業でサラリーマンをしているらしき人も、クリエイター系も、自営業も職業不詳も、性別不詳もニートもメンヘラも、ありとあらゆる人間が揃っている。

独身で相手を求めている男女が、出会い・オフパコをワンチャン狙っているふしも多々見受けられる一方で、既婚者や交際相手がいる人間もそれなりの割合でいる。

 

使われ方・コミュニケーションの方向

何にしても誰かがその空間の話題を占拠することなく、それぞれの日常をぼやぼやとつぶやいているのである。

そもそもマストドン自体がTwitterとは違って「炎上」「バズ」を狙いにくい・起こりにくい設計としている(と思われる)ことと、政治・ジェンダー論などで凝り固まったTwitterを毛嫌いしてこの場にいる人間が多いせいだと思うが、バズりからの一定ユーザーへの人気だけに乗っかる輩や、不毛なレスバトル・個人に対する極端な誹謗中傷は相当少ないように感じる。

異常な発言(酷い男女差別など)を憚らないユーザーもたまにいるし、クソリプ魔も時々発生するが、相手がそういう奴だと理解した上でわざと「当たりに行って遊ぶ」が、マズい感じになってきたら深追いせずにさっさとミュート・ブロックして無視する、という風潮が強い。

これは、今のところマストドンそのものが、ある程度SNSに関する知識やネットリテラシーがなければまともに使えない・楽しめないものになっているからだろう。

ネット空間での人間関係の距離感に慣れている人間同士、基本はTLにメンション無しのエアリプでお互いがやっていることを何となく眺めていて、ウケたり気になったら「★」を押してふぁぼる。よほど気になる場合や直接言いたいことが明確な場合に限ってメンションして絡みに行く、という、いにしえのネット空間に現代のSNSテクノロジーが混ざり合ったような、独特の空間になっている。

要するに、誤解を恐れずに言えば、昔の2ちゃんねる・特にVIP板のような雰囲気なのである。

基本は板に書き込みでエアリプ、必要な場合に限ってレス番でメンション、なのだ。エアリプとメンションの間に「★」(ふぁぼ)がある、みたいな感じで使っている(自分の観測範囲では)。

 

「ふぁぼ」の意味

かつてTwitterが★の「お気に入り(Favorite=ふぁぼ)」から♥の「いいね」に変えたのは、言論というよりは広告プラットフォームとして必要な判断だったのだなあと今となっては思う。

「良い」という価値判断基準を明確な数字にすること、それが目につくようにすることは必要な施策だったのだ。いいねが集まるものに価値があると思わせる→インプレッションを集めさせ、広告として機能させるのだ。なるほどなあ。

翻って今のマストドン(昔のTwitter)の「★」は「良い」という価値判断は少し抜けた表現で、「あなたの発言を見たよ・気にしているよ」という意味合いでとてもカジュアルだ。

基本的にどうでもいいこと、馬鹿なこと、気楽なことばかり発言しているマストドンユーザーだが、メンタルが落ち込んだり、何かしら辛い状況にあることを突然吐露し始めることがある。

そうした彼らが連投する何かしら大変な状況に対して、わざわざメンションすることはかえってその発言の流れを切ってしまう場合があり、返答が難しいことはよくある。文字数が限られる中でのコミュニケーション、本当に芯を食った返答などそう簡単ではない。現実社会でそうした話を聞く場合も、黙ってうなずくことが一番お互いにとって一番良いコミュニケーションであることが多いように思う。そんなとき、読んでいるよ・あなたの話を聞いているよ、あなたは一人じゃないよ、という意味で発言にそっと「ふぁぼる」ユーザーは結構いる。自分も結構この手は使う。

※UIの記号一つで意味が大きく変わってくることは、何かこれからとても大事な意味を持ってくるように思う。

 

JPの特徴:猥雑さと温かさと

とにかくユーザー数が多いので、自分の発言がすぐにTLの奥底に沈んでいく。逆に言うと発言一つ一つの比重が全体の中でとても軽く、何を言っていてもいい意味でそれほど気にされないので、気軽に発言できることはとても精神衛生に良い。

腹が立ったこと、嬉しかったこと、くだらないこと、ちょっとした猥談。何でもぽいぽい発言して、TLに沈めていく。TLの流速の早さ故、反応しても無視しても自由という、いい意味でのコミュニケーションの軽さがあり、かつ前述したようにお互いの距離を上手にとるユーザーが多いため、ふぁぼやレスを上手く使い分けて、こちらの状況を読んでくれていること、気にかけてくれていることが可視化される。おかげで、友人や家族などにも言えない・言うほどでもないレベルの話であっても、同じ時間にその場にいる誰かに少し受け止められているという安心感があるのだ。

そして、一見した感じの「ゴミ溜め」感とは裏腹に、思いのほか心優しい住人が多い。コミュニケーションの軽さとは裏腹に、本人が何か深刻そうな状況にあれば親身にその話を受け止め、絶妙なアドバイスやコメントを出す者もいる。

つまるところリテラシーが高い人間同志のコミュニケーションの場なので、そこになじめれば全然ストレスが溜まらないということに尽きてしまうのかもしれない。自分はとにかくこのJP鯖の猥雑さと裏腹な温かさを気に入っている。古き良き東南アジアの街を歩く時に感じる、猥雑さと温かさがこれに近いのかもしれない。

Twitterという完全に管理された巨大なタワーマンションとは違って、誰もオーガナイズしていないスラム、ゴミ溜め、掃き溜めがmstdn.jpだ。だが、意外なほどフレンドリーで暖かい住人がいるので、気に入ればずっとだらだらと入り浸ってしまう。バックパッカーが気に入った街に「沈没」してしまうのと非常に似ている。自分も、そんな住人の一人である。